メレアグリデス
メレアグリデス(古希: Μελεαγρίδες, ラテン語: Meleagrids)は、ギリシア神話に登場する女性たちである。アイトーリア地方の都市カリュドーンの王オイネウスとアルタイアーの娘であり、メレアグロスの姉妹である。主にゴルゲー、デーイアネイラ[1][2][3][4]、エウリュメデー、メラニッペー[5]、モトーネー[6]、ペリメーデーといった名前が知られている[7]。ホロホロチョウ(メレアグリデス)に変身したとされ、その名前も彼女たちに由来する。
神話
メレアグリデスの物語はカリュドーンで起こったギリシア神話における事件の1つであるカリュドーンの猪狩りと関係がある。メレアグロスは誕生したとき、運命の女神モイラたちに炉の中の薪が燃え終ったときに死ぬと予言された。そこで母アルタイアーは炉から薪を取り出して大切に保管しておいた。後にオイネウスはその年の収穫を神々に捧げた際に女神アルテミスだけを失念した。そのためアルテミスの怒りを買い、アルテミスは災厄としてアイトーリア地方にカリュドーンの猪と呼ばれる怪物を送り込んて国を荒らした。この大猪を退治するためにカリュドーンだけでなく、ギリシア全土から英雄が集まったが、メレアグロスは大猪を退治したとき、その毛皮を思いを寄せる女狩人アタランテーに与えようとした。すると母の兄弟たちがそれに異を唱えたため、メレアグロスは彼らを殺してアタランテーに与えた。兄弟が息子によって殺されたことを知ると、アルタイアーは保管しておいた薪に火をつけてすっかり燃やしてしまった。そのためメレアグロスはかつて予言されたように世を去った。メレアグロスの死後、姉妹たちは兄弟の突然の死に悲嘆し、ホロホロチョウに変身した[8][2][4][5]。
各原典ともに彼女たちがホロホロチョウに変身した経緯はほぼ同じである。オウィディウスはメレアグリデスが嘆く様子を次のように記している。彼女たちはあざができるほど自らの胸を激しく叩き、いつまでも遺体を抱き締めて何度もキスをし、遺体が棺に納められると同じことを棺に繰り返した。火葬されると残った灰を集めて胸に押し当て、骨が墓に収められるとメレアグロスの名が刻まれた墓石にすがりついて涙の雨を降らせた[2]。
オウィディウスやアントーニーヌス・リーベラーリスによると、彼女たちを鳥に変えたのは他ならぬアルテミスである。ただし、ゴルゲーとデーイアネイラの2人は鳥になることを免れた[2][5]。これはディオニューソス神の加護によるという[5]。アルテミスは彼女たちがメレアグロスの墓の周囲で声を上げて嘆き悲しむのを止めるため、杖で触れて鳥に変え、レーロス島に送り、彼女たちにちなんでホロホロチョウ(メレアグリデス)と名付けた[5]。ヒュギーヌスはホロホロチョウの姿に変えたのは彼女たちを憐れんだ神々としている[4]。
文献別リスト
メレアグリデスのうち必ず名前が上がっているのは鳥に変身しなかったゴルゲーとデーイアネイラであり、ともにヘーシオドスの『名婦列伝』断片、オウィディウス、アポロドーロス、ヒュギーヌス、アントーニーヌス・リーベラーリスなどに見える。ゴルゲーはアンドライモーンとの間にトロイア戦争に参加するトアースを生んだ。デーイアネイラは大英雄ヘーラクレースと結婚してヒュロスを生んだが、アポロドーロスは彼女をアルタイアーとディオニューソスとの間に生まれた娘としている[3]。パウサニアースが名前を挙げる姉妹のうち、モトーネーはトロイア戦争後に生まれた庶子の娘で、メッセーネー地方の都市モトーネーの名祖とされる[6]。ペリメーデーはポイニクスと結婚して2女アステュパライア、エウローペーを生んだ[7]。
文献順 | 名前 | 綴り(el) | 綴り(la) | Hesi | Ap | Ovi | Hy | Ant | Pa |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
順-01 | ゴルゲー | Γοργή | Gorgē | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
順-02 | デーイアネイラ | Δηϊάνειρα | Dēianeira | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
順-03 | エウリュメーデー | Εὐρυμήδη | Eurymēdē | ○ | |||||
順-04 | メラニッペー | Μελανίππη | Melanippē | ○ | |||||
順-05 | モトーネー | Μοθώνη | Mothōnē | ○ | |||||
順-06 | ペリメーデー | Περιμήδη | Perimēdē | ○ |
系図
アイオロス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アエトリオス | カリュケー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エンデュミオーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイトーロス | パイオーン | アミュターオーン | エペイオス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
プレウローン | カリュドーン | アイオリアー | ヒュルミーネー | ポルバース | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アゲーノール | エピカステー | プロートゲネイア | アレース | アクトール | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポルターオーン | アポローン | デーモニーケー | アレース | オクシュロス | エウリュトス(モリオネ) | クテアトス(モリオネ) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アグリオス | ストラトニーケー | メラネウス | テスティオス | エウエーノス | モーロス | ピュロス | タルピオス | アムピマコス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
テルシーテース | エウリュトス | イーダース | マルペーッサ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ペリボイア | オイネウス | アルタイアー | レーダー | テュンダレオース | ヒュペルムネーストラー | オイクレース | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
テューデウス | デーイアネイラ | ヘーラクレース | アンドライモーン | ゴルゲー | メレアグロス | クレオパトラー | メネラーオス | ヘレネー | アムピアラーオス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ディオメーデース | アイギアレイア | ヒュロス | トアース | プローテシラーオス | ポリュドーラー | ヘルミオネー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- アントーニーヌス・リーベラーリス『メタモルフォーシス ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)
- オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫(1981年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍渓書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)